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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)8752号 判決

原告

山口順久

被告

渋谷裕之

主文

被告は、原告に対し、四一三三万一〇〇〇円及びこれに対する昭和五九年五月三日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを一〇分し、その七を原告の、その余を被告の各負担とする。

この判決は、第一項につき、仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、一億三七八六万〇七三〇円及びこれに対する昭和五九年五月三日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五九年五月二日午後四時二〇分ころ

(二) 場所 東京都中野区上高田二丁目一番一号先路上(以下「本件事故現場」という。)

(三) 加害車 普通乗用自動車(練馬五八も三二八三)

(四) 右運転者 被告

(五) 被害車 自動二輪車(杉並区ま九六九〇)

(六) 右運転者 原告

(七) 事故の態様 原告が被害車を運転して本件事故現場道路を進行していたところ、被告運転の加害車が、対向車線からその進行方向右側道路外のガソリンスタンドに立ち寄るため、原告進行車線に右折進入し、被害車に衝突し、原告に後記傷害を負わせた(以下「本件事故」という。)。

2  責任原因

被告は、加害車を道路外に出すため対向車線を横断して右折するに当たり、対向車両の有無及びその安全を確認する注意義務があるにもかかわらず、これを怠り漫然と右折した過失により発生したものであるから、民法七〇九条により原告の後記損害を賠償する責任がある。

3  原告の受傷状況

原告は、本件事故により右腕神経叢損傷、左ホルネル症候群、左肺挫傷、顔面挫創、頸部擦過傷、左距骨骨折の傷害を受け、本件事故当日から七月二九日まで日本医科大学付属病院に入院し、八月一日同病院に通院し、八月七日から東京慈恵会医科大学付属病院第三分院及び東京慈恵会医科大学付属病院に入通院し、同年一〇月二二日には左肘屈曲再建のため左肋間神経の移行手術がなされたが、左腕神経叢麻痺の症状は改善せず、左肩関節以下の自動運動は不能であり、今後現在の症状を悪化させないため手術を含め加療が必要な状態にある。その後も治療に専念したが完治せず、昭和六一年六月一〇日症状固定したが、左上肢を全廃したうえ知覚障害までも認められ、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)施行令二条別表後遺障害別等級表四級に相当する後遺障害が残つた。更に、その後も通院治療を続けている。

4  損害

原告は、本件事故により次のとおりの損害を受けた。

(一) 治療費 八〇六万〇八九九円

原告は、本件事故による傷害の治療のため、以下のとおりの治療費を要した。

(1) 日本医科大学付属病院分 一四五万八八〇五円

右のうち健康保険による給付を除く分は、四六万五五一九円である。

(2) 東京慈恵会医科大学付属病院第三分院分 五八二万〇七四四円

(3) 東京慈恵会医科大学付属病院分 七八万一三五〇円

右のうち五二万三八〇〇円は昭和六一年一月一一日から同年四月三〇日までの分であり、その余の二五万七五二〇円は同年五月二日以後の分である。

(二) 付添看護費 三〇八万円

原告は、右入院期間(二七六日間)中及び入院以外の期間(昭和五九年七月三〇日から八月一七日までと昭和六〇年二月二一日から昭和六一年六月一〇日までの期間)、付添看護費として一日当たり四〇〇〇円を要した。

(三) 入院雑費 二七万六〇〇〇円

原告は、右入院期間(二七六日間)中、入院雑費として一日当たり一〇〇〇円を要した。

(四) 通院交通費 五九万八一一〇円

原告は、前記各病院への通院のため交通費として右金額を要した。

(五) 通院付添費 五七万円

原告は、左上肢が全廃のため、その通院の付添のため、二八五日分につき一日当たり各二〇〇〇円を要した。

(六) 休業損害 一五四五万五四二五円

原告は、昭和一二年九月一八日生まれで症状固定時当時四八歳であり、本件事故当時有限会社山口商店を経営し、材木商を営んでいたものであるが、本件事故以後休業状態であり、原告の収入は全くない。

原告の経営する有限会社山口商店は、昭和五八年一二月までは、原告に対し一ケ月一〇万円を、原告の父山口宗三に対し一ケ月一二万円を、原告の母山口キエに対し、一ケ月三万円を、昭和五九年一月からは、原告に対し一ケ月二〇万円を、原告の父山口宗三に対し一ケ月一〇万円を、原告の母山口キエに対し、一ケ月五万円をそれぞれ報酬ないし給与の名目で支払つていた(以上を合計すると昭和五八年四月一日ないし昭和五九年四月三〇日期の報酬及び給料は、三三〇万円となる。)。しかしながら、右山口宗三(昭和六一年六月三〇日死亡)及び山口キエは老齢のため、右山口商店の事務の一切は原告がこれをなしていた。したがつて、原告の収入は右三人分全部である。右山口商店は、税金対策上利益をできるだけ出さないように会計上の処理をしており(売上を過少に評価し、いわゆる経費―一般管理費及び販売費―を過大に、すなわち、元々経営者である原告のいわば家計費とすべきものを会社の負担とするという形態)、右の収入金額も名目上のものにとどまり、実態を反映するものになつていない。

本件事故の日から症状固定日までの期間は、二年と九日間であり、前記事情から、原告の収入は、昭和五九年賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・大学卒、四五歳から四九歳までの男子労働者の平均賃金である七六三万三六〇〇円を基礎とすべきであり、その間の休業損害は次の計算式のとおり右金額となる。

(計算式)

七六三万三六〇〇円×(二+九÷三六五)=一五四五万五四二五円

(七) 逸失利益 九二一一万二五一三円

原告の症状固定時の年齢は、症状固定時四八歳であり、前記後遺障害のため、一九年間にわたり九二パーセントの労働能力を喪失したものである。前記の昭和五九年賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・大学卒、四五歳から四九歳までの男子労働者の平均賃金である七六三万三六〇〇円を基礎とし、年五分の割合による中間利息の控除を新ホフマン式計算法で行うと、原告の逸失利益は次のとおりの計算式により右金額となる。

(計算式)

七六三万三六〇〇円×〇・九二×一三・一一六=九二一一万二五一三円

(八) 傷害慰藉料 三〇〇万円

原告の、本件事故により受けた傷害による精神的苦痛を慰藉するためには、右金額が相当である。

(九) 後遺障害慰藉料 一三〇〇万円

原告の、本件事故による前記後遺障害による精神的苦痛を慰藉するためには、右金額が相当である。

(一〇) 医師等への謝礼 三六万八〇〇〇円

(一一) 歯の治療費 三二万円

原告は、本件事故による顔面挫創のため、歯の治療代として右金額を要した。

(一二) 装具代 二万一六〇〇円

原告は、装具代として右金額を要した。

小計 一億三六八六万二五四七円

(一三) 弁護士費用 一三六八万六二五四円

原告は、被告が任意に右損害の支払いをしないために、その賠償請求をするため、原告代理人らに対し、本件訴訟の提起及びその遂行を依頼したが、右金額を被告が負担すべきである。

合計 一億五〇五四万八八〇一円

よつて、原告は、被告に対し、右損害金のうち一億三七八六万〇七三〇円及びこれに対する本件事故発生の日の後である昭和五九年五月三日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(事故の発生)事実中、事故態様は争い、その余は認める。

2  同2(責任原因)の事実は争う。

3  同3(原告の受傷状況)の事実中、原告は、本件事故により右腕神経叢損傷、左ホルネル症候群、左肺挫傷、顔面挫創、頸部擦過傷、左距骨骨折の傷害を受け、本件事故当日から七月二九日まで日本医科大学付属病院に入院し、八月一日同病院に通院し、八月七日から東京慈恵会医科大学付属病院第三分院及び東京慈恵会医科大学付属病院に入通院し、同年一〇月二二日には左肘屈曲再建のため左肋間神経の移行手術がなされたが、左腕神経叢麻痺の症状は改善せず、左肩関節以下の自動運動は不能であり、今後現在の症状を悪化させないため手術を含め加療が必要な状態にあることは認め、その余は知らない。原告の後遺傷害は自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表六級に該当するものである。

4  同4(損害)の事実中、(一)治療費中、症状固定日までのもの、すなわち日本医科大学付属病院分四六万五五一九円(同病院の治療費の総額は一四五万八八〇五円であるが、その内九九万三二八六円は健康保険から支払われているので損害額に加算しない。)、東京慈恵会医科大学付属病院第三分院分五八二万〇七四四円、東京慈恵会医科大学付属病院分六七万二六七〇円分については認め、その余は争う。原告は、症状固定日後の治療費を請求しているが、右期日後に発生する原告の症状に関する損害は、後遺障害として評価されるから、右請求は失当である。(二)付添看護費については、入院中の看護の必要性については争わないが、自宅での看護の必要性は争う。(三)入院雑費は争う。(四)通院交通費も症状固定後の請求は失当である。(五)通院付添費は、自宅での看護費と重複するものであり、仮に認めるとしてもどちらかに限定して認めるべきである。(六)休業損害は争う。原告の現実収入は多く見積もつても年収一九二万円程度である。したがつて、右金額をもつて休業損害を算定すべきである。原告は、大学卒の平均賃金を根拠とすべきであると主張するが、失当である。なぜなら、平均賃金は、文字どおり「平均」なのであり、その額を下回る収入の者も多数存在しているのであり、原告もその一人であり、原告の現実収入が平均に達しない場合に、平均賃金で算定することは平均賃金を最低賃金化することになり、公平な賠償法理に反するからである。(七)逸失利益は争う。前記のように算定の基礎は現実収入でなすべきである。原告の後遺障害は、前記のとおり自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表六級に該当するものであり、四級には該当しない。したがつて、労働能力喪失率は六七パーセントであるが、六七歳まで一律に右喪失率で算定することは相当ではない。(八)傷害慰藉料及び(九)後遺障害慰藉料は争う。(一〇)医師等への謝礼、(一一)歯の治療費、(一二)装具代及び(一三)弁護士費用についてはいずれも知らない。

三  抗弁

1  弁済

被告は、原告に対し、治療費六九五万八九三三円(その他健康保険組合からの求償分九九万三二八六円)、看護費一〇二万五六〇〇円、休業補償一五七万二五〇〇円、通院費三九万九一九〇円及び雑費一一万〇七〇〇円を、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から一〇〇〇万円合計二〇〇六万六九二三円(その他健康保険組合からの求償分九九万三二八六円)を支払つている。

2  過失相殺

被告は、加害車を運転して、本件事故現場付近に差しかかつたところ、対向車線右側のガソリンスタンドで給油を受けようと考え、そこに入るため、本件事故現場付近の中央線にそつて停車し、右折の合図をした。対向車が途切れたので対向車線を確認すると、対向車は、前方に乗用車が一台あるのみであり、右対向車も極めて低速で走行してくるので、安全に右折してガソリンスタンドに入れると考え、時速約五キロメートルの速度で右折を開始した。そして、加害車が道路とほぼ直角になつたとき、加害車左側部に被害車が衝突してきたのである。

本件事故の発生について、被告に前方不注視の過失はあるが、被告が本件事故発生まで被害車を発見できなかつたのは、被告が漫然と見落としたためではない。加害車と被害車との間には、前記対向車(原告にとつては先行車)が存在し、相互にその存在が認識し得なかつたためである(原告も本件事故前に中央線付近で停車している被害車を認識していないが、それも右理由による。)。被告の過失は、中央線付近で停止した際に、被害車を発見できなかつたことではなく、右折開始後に速やかに被害車を発見して事故を回避すべきであつたのにこれをしなかつたことである。

前記のとおり、加害車と被害車との間には前記対向車が存在し、相互にその存在を認識することはできなかつた。しかし、被害車が右折を開始した後は、被告に比して原告の方が相手方車両の存在を認識しやすかつた。なぜなら、運転席に座つている被告が前記対向車に邪魔されて、被害車を視認できなくとも、原告は、先行車の陰から右折してくる加害車の先端を容易に認め得るからである。原告が前方を注視しており、右折してくる加害車の先端を発見した後、制動措置をとれば、優に衝突地点の相手手前で停止し得たのである。しかし、本件事故が発生しているということは、原告が前方を注視しておらず、加害車を発見できなかつたものである。よつて、原告の損害について三割の過失相殺をすべきである。

四  抗弁に対する認否

1  弁済の抗弁中、原告の治療費のうち健康保険負担部分を除き六八一万〇〇九三円を支払つたこと及び自賠責保険から一〇〇〇万円が支払われたことは認め、その余は知らない。

2  過失相殺の抗弁は争う。原告は、加害車を発見し得る時期に発見した途端に制動措置を講じているのである。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)中、事故の態様を除く部分については当事者間に争いがない。

二  次いで、事故の態様、同2(責任原因)及び過失相殺の抗弁について判断する。

1  成立に争いのない甲一六号証から二一号証まで、三〇号証及び原被告各本人尋問の結果によれば、以下の事実が認められる。

本件事故現場は、中野駅(西側)方面から山手通り(東側)方面に通じる早稲田通り上であり、早稲田通りは、歩車道の区別があり、車道幅員約九メートル(片側二車線、両側四車線)で、約二・八五メートルの幅員の歩道を両脇に有しており、本件事故現場の中野駅側には、北側に幅員三・四メートルの道路との信号機による交通整理のされていない交差点があり、その山手通り側にはガソリンスタンドがあり、その車両出入口が設けられており、周囲は市街地で、指定最高速度は時速四〇キロメートルの規制があり、路面は、アスファルト舗装され、平坦で、本件事故発生時は乾燥していた(別紙図面参照)。

被告は、加害車を運転して山手通り方面から中野駅方面へ向かい、本件事故現場付近に差しかかつたが、前記ガソリンスタンドで給油を受けようと考え、そこに入るため中央寄り車線に一旦停止し、右折の合図をして、対向車の途切れるのを待ち、対向車が途切れたと認識して、右折を開始したが、前方の注視が不十分であつたため、対向車線の歩道寄りを中野駅方面から山手通り方面に進行してきた被害車に気づかず、加害車左側部を被害車に衝突させた。

原告は、被害車を運転して中野駅方面から山手通り方面に向かい歩道寄り車線を走行してきたが、右折の合図をして自車線に進入すべく、停止していた加害車に気づかず、前方に進行していつたところ、加害車が右折を開始したため、前記のように加害車と衝突した。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右事実に徴すると、本件事故は、被告の前方不注視の過失により加害車が右折開始に際し、被害車を発見せず、被告が右折開始後に速やかに被害車を発見して事故を回避すべきであつたのにこれをしなかつた過失により発生したものであるから、被告は、民法七〇九条により、原告の後記損害を賠償する責任があるというべきである。

3  また、原告にも右折の合図をして停車していた加害車の挙動について注意を払わなかつた過失があり、原被告の過失を勘案すると、本件事故発生の過失の大半は被告にあるものの、原告の過失も損害の算定に当たり斟酌しえないほど僅少ではなく、双方の過失の割合は、被告が九、原告が一とするのが相当であり、原告の損害から一割の過失相殺をするのが相当である。

三  同3(原告の受傷)の事実について判断する。

原告は、本件事故により右腕神経叢損傷、左ホルネル症候群、左肺挫傷、顔面挫創、頸部擦過傷、左距骨骨折の傷害を受け、本件事故当日から七月二九日まで日本医科大学付属病院に入院し、八月一日同病院に通院し、八月七日から東京慈恵会医科大学付属病院第三分院及び東京慈恵会医科大学付属病院に入通院し、同年一〇月二二日には左肘屈曲再建のため左肋間神経の移行手術がなされたが、左腕神経叢麻痺の症状は改善せず、左肩関節以下の自動運動は不能であり、今後現在の症状を悪化させないため手術を含め加療が必要な状態にあることは当事者間に争いがない。

右争いのない事実に、原本の存在、成立ともに争いのない甲二号証から七号証まで、成立に争いのない甲三八号証、三九号証の一から八まで及び原告本人尋問の結果を総合すると、以下の事実が認められる。

原告は、右のように治療を受け、日本医科大学付属病院に八九日間、東京慈恵会医科大学付属病院第三分院に一八七日間入院し、昭和六〇年二月二〇日に退院後も相当日数通院し(当初からの実通院日数通算で約二八〇日)治療を受けたが、結局完治せず、昭和六一年六月一〇日症状固定し、その後遺障害は、左肩関節の自動運動は全く不可能、肘関節の屈曲は僅かに可能、手指の屈曲は僅かに可能、手指掌側は高度の知覚鈍麻、手背側は知覚脱出し、左上腕から前腕にかけての疼痛が高度で睡眠に差し支えることもあるという後遺障害が残つた。自動車保険料率算定会自賠責保険調査事務所の認定では自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表六級に相当する後遺障害が残つたとされている。そして、症状固定後もリハビリ等のため通院を継続している。本件事故当時左上肢の三大関節の機能は全廃であつたが、肋間神経移行手術により肘関節の屈曲が可能になりつつあるが、そうはいつても、症状固定時においては、自動で屈曲五度、他動で一四〇度であり、ほとんど機能していない。左肩関節、手関節手指の運動傷害は存続する。肩関節に対しては将来肩関節固定術が必要であり、肩関節が固定されても肘関節、手関節の機能傷害は存続する。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

四  損害

原告は、本件事故により次のとおりの損害を受けた。

1  治療費 七〇六万七六一三円

原告は、本件事故により受けた傷害の治療のため、日本医科大学付属病院分四六万五五一九円(同病院の治療費の総額は一四五万八八〇五円であるが、その内九九万三二八六円は健康保険から支払われているので損害額に加算しない。)、東京慈恵会医科大学付属病院第三分院分五八二万〇七四四円の治療費を要したことは当事者間に争いがない。また、東京慈恵会医科大学付属病院分の治療費について症状固定前の六七万二六七〇円分についても当事者間に争いがなく、前掲甲三九号証の八及び原告本人尋問の結果により東京慈恵会医科大学付属病院分の治療費については、右を含め、原告主張の七八万一三五〇円であると認められる。なお、前記受傷状況からみて、症状固定とされた日の後の治療費も本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

2  付添看護費 一一八万円

前記認定の原告の受傷状況、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告の前記入院期間中(二七六日間)及び日本医科大学付属病院退院後、東京慈恵会医科大学付属病院第三分院に入院するまでの期間の一九日間近親者の付添を要し、その間一日当たり四〇〇〇円の付添看護費を要したものと認められる。なお、その余の期間については、原告の症状からみて付添を要するとは認められない。

3  入院雑費 二七万六〇〇〇円

弁論の全趣旨によれば、原告は、右入院期間(二七六日間)中、入院雑費として一日当たり一〇〇〇円を要したことが認められる。

4  通院交通費 四〇万円

原本の存在、成立ともに争いのない甲八号証の一から五まで、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲三七、四〇号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告及びその近親者は、原告の入院付添及び通院のため交通費として相当額を要したことが認められるが、右のうち、他の目的に支出したと認められるもの、タクシー使用の相当性に疑問があるもの等が含まれるため、そのうち四〇万円を本件事故と相当因果関係があるものと認める。

5  通院付添費 〇円

本件訴訟に顕れた原告の症状からみて、その通院に付添が必要な事情は認めることができない。

6  休業損害 六六八万一三六九円

弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲四一号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

原告は、昭和一二年九月一八日生まれで、大学卒業後一時サラリーマンをしていたが、その後家業である木材販売業に就き、本件事故当時両親と共に三名で有限会社山口商店を経営し、材木商を営んでいたものであるが、昭和五八年四月から昭和五九年三月三一日までの営業成績は、商品総売上が一四〇〇万円弱であり、原告の両親と原告の役員報酬及び給料を合わせると三三〇万円、山口商店自体の利益は、ほぼ〇であつた。原告の両親である山口宗三(昭和六一年六月三〇日死亡)及び山口キエは高齢であり、山口商店の事務のほとんどは原告がこれをなしていた。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実に徴すると、原告の収入は、右三名の役員報酬及び給料の総額である三三〇万円と同額とするのが相当である。

なお、原告は、右山口商店は、税金対策上利益をできるだけ出さないように会計上の処理をしており(売上を過少に評価し、いわゆる経費―一般管理費及び販売費―を過大に、すなわち、元々経営者である原告のいわば家計費とすべきものを会社の負担とするという形態)、右の収入金額も名目上のものにとどまり、実態を反映するものになつていないので、昭和五九年賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・大学卒、四五歳から四九歳までの男子労働者の平均賃金を基礎とすべきである旨主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。

原告の休業期間は、本件事故の日である昭和五九年五月二日から症状固定の日である昭和六一年六月一〇日までの二年と九日間であるから、その間の休業損害は次の計算式のとおり右金額となる。

(計算式)

三三〇万円×(二+九÷三六五)=六六八万一三六九円

7  逸失利益 三五八九万円

前認定の後遺障害についての事実、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲二〇号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

原告は、昭和一二年九月一八日生まれで後遺障害固定日である昭和六一年六月一〇日当時四八歳であり、前記後遺障害のため、症状固定後も、肩関節の固定の再手術の必要があり、収入自体が途絶えた状態が継続している。以上の事実が認められる。

以上の事実を前提に原告の逸失利益を検討するに、原告の職業、年齢その他本件訴訟に顕れた諸般の事情を斟酌すると、原告の逸失利益は、前記収入である三三〇万円を基礎とし、症状固定の日である昭和六一年六月一〇日から一九年間に亙り、その九〇パーセント相当の労働能力を喪失したものであるとするのが相当であり、年五分の割合による中間利息の控除をライプニツツ式計算法で行うと、原告の逸失利益は次のとおりの計算式により三五八九万円となる。

(計算式)

三三〇万円×〇・九×一二・〇八五三=三五八九万円(円未満切捨て)

8  傷害慰藉料 二四〇万円

本件訴訟に顕れた諸般の事情に鑑みると、原告の本件事故により受けた傷害による精神的苦痛を慰藉するためには、右金額が相当であると認められる。

9  後遺障害慰藉料 一〇五〇万円

原告には前記後遺障害が残つたが、本件訴訟に顕れた諸般の事情に鑑みると、原告の本件事故による後遺障害による精神的苦痛を慰藉するためには、右金額が相当であると認められる(前記認定の後遺障害の程度からみて、自動車保険料率算定会自賠責保険調査事務所の後遺障害についての認定は若干低いものと認められる。)。

10  医師等への謝礼 一五万円

原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、原告の傷害の治療に当たつた医師に対し、相当額の謝礼を支払つたものと認められるが、原告の症状、治療状況その他本件訴訟に顕れた諸般の事情を斟酌すると、その内右金額を相当と認める。

11  歯の治療費 三二万円

弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲三五号証の一から三まで及び原告本人尋問の結果によれば、原告が本件事故による顔面挫傷の傷害を受けたため、歯が破損し、その治療のために右金額を要したことが認められる。

12  装具代 二万一六〇〇円

弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲三四号証及び四三号証の各一、二、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、装具代として右金額を支出したものと認められる。

小計 六四八八万六五八二円

13  過失相殺

前記のように本件事故発生につき原告にも一割の過失があるから、右損害から右割合による減額をすることとする。

小計 五八三九万七九二三円

14  弁済の抗弁

弁済の抗弁中、原告の治療費のうち健康保険負担部分を除き六八一万〇〇九三円を支払つたこと及び自賠責保険から一〇〇〇万円が支払われたことは当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙六号証、七号証の一から八まで、第八号証の一から三まで、第九号証の一、二、第一〇号証によれば、被告は、原告に対し、右を含め、治療費六九五万八九三三円(その他健康保険組合からの求償分九九万三二八六円)、看護費一〇二万五六〇〇円、休業補償一五七万二五〇〇円、通院費三九万九一九〇円及び雑費一一万〇七〇〇円を、自賠責保険から一〇〇〇万円合計二〇〇六万六九二三円(その他健康保険組合からの求償分九九万三二八六円)を支払つていることが認められるので、以上の金額を前記損害から控除することとする。

小計 三八三三万一〇〇〇円

15  弁護士費用 三〇〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告は、被告が任意に右各損害の支払いをしないので、その賠償請求をするため、原告代理人に対し、本件訴訟の提起及びその遂行を依頼したことが認められ、本件事案の内容、訴訟の経過及び請求認容額に照らせば、弁護士費用として被告に損害賠償を求めうる額は、右金額が相当である。

合計 四一三三万一〇〇〇円

四  以上のとおり、原告の本訴請求は、被告に対し、四一三三万一〇〇〇円及びこれに対する本件事故発生の日の後である昭和五九年五月三日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法八九条、九二条、仮執行宣言については同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮川博史)

別紙図面

〈省略〉

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